『和風にされたその牛は』

先日、ビッグボーイに行った。
ファミレスチェーンのビッグボーイである。
しばらくめまいが続いていて、かろうじて歩ける状態になったのでできるだけ栄養のあるものを食べようと思いビッグボーイに行くことを選択したのだ。
ビッグボーイにはサラダバーもある。

和風おろしハンバーグを注文した。
和風おろしハンバーグは他のハンバーグよりも安めに値段設定されていることが多いのでありがたい。
サラダバーではオクラをたくさん食べた。
ありがたい。ありがたい。

感謝の気持ちに満たされながら何度目かのサラダバーに行くと、食材の生産地一覧が印刷されていることに気づき、目を通した。
病み上がりの脳にはちょうどいい情報量だ。
どうやら私が食べたハンバーグに使われている牛肉はオーストラリア産らしい。
「はるばるオーストラリアから、どうもありがとう」と思った。
体調の不良が改善すると世界は輝きを取り戻す。

それにしても私はオーストラリアの牛を食べた。
これは初めてのことではなく、きっと数え切れないほど経験したことだ。
しかしながら私は、例えばオーストラリアの空を見たことがない。
不思議ではないだろうか。

空を見るより牛を食べる方が簡単だということなのだから。
不思議だ。

日本に住むあなたが部屋で寝転がっているときに天啓を受けたとしよう。

「汝、救われたくば、5秒以内に牛を食べるか空を見よ」

その瞬間あなたはバッと立ち上がり、窓を開け天を仰ぐだろう。
そして救われる。
たった5秒で。

だが、オーストラリアの空はこうも簡単には見られない。
航空券を用意して、飛行機に乗って、パスポートにはんこを押してもらって、やっと、空を見る権利が得られる。一苦労だ。

一方オーストラリアの牛肉は、わざわざオーストラリアに行って牛を捕獲したり精肉店を探したりしなくても食べられる。
最寄りのビッグボーイに行き、座ってちょっと待っていればいいのだ。
すると、牛肉を持った店員がどこからともなくやってくる。
不思議!

魔法のお店、ビッグボーイ。

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