柿が10個入った袋に1000円の値札だけが貼られていた。品種どころか種ありor種無しも判断できなかったが、見た目の質は良いとはっきり感じられたので、買った。
結果、種無しで甘い。買って大正解だった。昨シーズンから柿は皮ごと食べることに決めたので、4等分にしてから残ったヘタを斜めに切り落とせば、たった6回のカットで食べられるようになる。この楽さを知ってしまうと、もう柿の皮を剥くことはできない。
今日はもともと何の目的もなく午後休を取っていたのだが、いくつか行ってみたい場所があったので、それぞれ足を運ぶことにした。
恐山さんに教えてもらった幡ヶ谷のアイス屋さん。単品のアイスもたくさんあるがここでは先達のおすすめに従い、スープの上にアイスが浮かんでいるという、見た目の印象以上に食べたことのない料理を食べた。スープは月替わりとのことで、今月はぶどうのスープ。しかしそこに浮かぶアイスは、恐山さんが言っていたレモングラス&杏仁味ではなく、「山羊のフロマージュ」みたいな名のついたチーズ系のアイスだった。
注文の際、私は恐山さんのテキストにあった「レモングラス」「杏仁」「ぶどうのスープ」の文字列をそのまま探していたので、アイスの変化に気づき「短期限定メニューでそんな遊びを用意してくることがあるのか」と動揺していた。
何か飲もうとドリンクメニューに目をやったところそちらも種類が豊富で、先の動揺も残っていた私は、「皆さんよく頼まれる飲み物とかありますか?」と変なこだわり方を見せる質問をしてしまった。アイス屋なんだからアイスで聞け。自分の不審さにどぎまぎしながら、水出しのお茶を頼んだ。
最初にスープを飲んだ。なるほどぶどうのスープである。質の良い液体だからといって闇雲に味が濃いわけではなく、スプーンですくって味わうメニューとして適した圧力でぶどうを味わえる。ジュースのように飲むというより、味を舌の上に置く感じ。うまい。
山羊のフロマージュアイスは、まずそれ自体が知らないものだったので意表を突かれたが、当然うまい。これに関しては特にあれこれ言えないが、うまい。そしてスープと一緒に食べると、うまい。「なんだこれ」「うま」を繰り返していたらいつの間にか無くなっていた。これが月替わりで出てくるとなると、たしかに都度気になってしまうかもしれない。10月は柿とかあるんではないか。いや、梨かも。
しっかりとうまかったので、単品のアイスを追加で頼んでしまった。恐山さんは逆の流れで同量を食べていたようだが、実際に味を知ると納得できる。「この店のアイスはうまい」と一発で信頼できてしまうから、追加注文を決断するハードルが全く高くないのだ。
私が食べたのは「無花果とローズマリー」「ピオーネとレモングラス」だった。いま文字を打ち込んでいて唾液が出てくるほど私好みのテイストである。
実際め〜ちゃくちゃうまかった。特にピオーネとレモングラスのアイスが、興奮するほど、うまい。よく分からないけど生姜っぽい刺激も感じられて、スパイス感とぶどうの相性がこんなにも良いものかと震えた。私の具体的な好みを新たに発見したような感覚。こちらのぶどうも9月が終われば交代の時期になってしまうのかなあ。この取り合わせは季節限定の味として別れを認めるには惜しい。小規模でもなんらかの再現性を得て、去る者を追いたい。
そういえば幡ヶ谷という場所には今日初めて降りた。もともと旗の台という地名と混同していた時期が長く、どこにあるのかはっきり認識できていなかった。京王線で幡ヶ谷の隣は初台だから、余計にややこしいのだ。
代々木上原駅に向かって歩いていたら、雰囲気を出している餃子屋があった。按田(あんだ)餃子というらしい。この外観を撮ったのは帰り際だったが、発見した時は2組が並んでいたので、後ろについた。
定番は水餃子定食らしいので、それを頼んだ。あと、自家製のクラフトコーラというのが目についたからそれも頼んだ。
先にクラフトコーラが来た。
大きい。
大きさ分かりますか?
もう飲んじゃってるけど、拳とグラスを比べてほしい。私の手は特別小さいわけではない。成人男性の中でも平均かそれ以上の大きさがあると思っているが、それと比較してのこれだ。
クラフトコーラのお品書きを見たら、説明として「特大」の文字があった。なぜだ。量が多いことは100%嬉しいから素直に喜べばいいんだけど、驚きは驚きとして独立していた。味はうまかった。
定食の水餃子は4種類×2個で味が多くてうまかった。右手前はめかぶっぽいスープ、左手前は豚そぼろ飯?とかだった。ごはんの底に肉とタレが隠れていて、混ぜながら食べる。いずれもうまかった。豚そぼろといっても挽肉に味を付けたものではなく、煮たブロック肉をほぐしたようなもので、よかった。
食べ終えた後、まだまだ残っているコーラを飲みながら一息ついた。
千代田線を使って国立新美術館に行った。
テート美術館とかイブ・サンローラン展とか面白そうなのがあったが、私の目的は「新制作展」という、美術団体が毎年開催する公募展だった。主催の新制作協会という団体に私の親戚が所属しており、毎年招待状が届くので、かねてよりたびたび見に行っている。
ここでは絵画や彫刻など大量の作品が3フロアにわたって展示される。彫刻から見ていったが、「なんかいいじゃん」と思った作品のタイトルを見ると「そんなつもりだったの!?」と思うことが多くてビビった。石を材料とする角ばった彫刻のタイトルが「午前5時の雲」だったり、間隔をとって並ぶ2つの削られた石のタイトルが「時のカプセル 内と外」だったり。でもそれを踏まえて意図を考えるのは楽しかった。
この作品のタイトルは「赤い石・黒い石」だった。
そうだよなあ、と、これはこれでじっくり見てしまった。
これ面白かった。木が氷漬けになっているような作品。
綿とエポキシ樹脂を使って、この氷っぽさを作っている。実際に近くで見ないと分からないかもしれない。私は最初なんの疑いもなく「溶けて水が垂れちゃわないのかな?」と床を確認したほど、氷に見えた。
会場は大きな壁で仕切られているが、ふと「この壁はどこからやってきたのだ」と思った。
天井の溝がレールになっていた。
その後、同人誌の方針をイメージするため新宿の紀伊国屋書店へ行った。一旦いろんな本を見ようと思って。
2階の文芸フロアの窓際でトークイベントのようなものをやっており、ちょっと覗いたが人が多くて登壇者がよく分からなかった。少し離れたところにいた店員に「あれは何をしてるんですか?」と聞いてみたら、「青松先生という短歌の方が出版記念のイベントをされていますよ」と教えてくれた。短歌で青松……なんか聞いたことある気がするぞと思い、短歌コーナーに行ったら当人のポスターがあり、答えがわかった。Twitterのベテラン中学生さんだった。
イベントスペースには若者がたくさんいた。本屋にこれほど若者が集まるかね、と思うぐらい若者だらけだった。若者に人気がある人は羨ましい。私は昔から年寄りウケばかりよかったから。
若者そのものに好かれたいわけではないが、20代前後のセンスを通して面白いと思われたい。年寄りにウケたところで、何かが爆発する期待は感じられない。大体の年寄りは何かを受け取っても既に知っている感情や知識に当てはめて、死を待つ間の安心の材料にするだけだから。
古い感覚を持つ者をジジイババアと言って切り捨てる覚悟が必要になる場面はあると思っている。先に死ぬやつの機嫌を損ねたって構わねえよ、という割り切りがなければ今が腐る。これはあくまで部分的な考えで、常にそのスタンスでいたらやばいけど、そういう気持ちを適宜引っ張り出せるところに用意しておかなければ道徳臭くなって終わりそうという話。
チンジャオロース。細切りのタケノコ水煮が見つからず、スーパーを4軒まわった。そんなことは普通ない。
同人誌のイメージを少しずつ固めている。当初は知っている人だけに小規模に届けばいいやと思っていたが、やはり多くの人に読んでもらいたいと思うようになった。私を知らない人でも欲しいと思うような本にしたい。いわんや既に知ってくれている人をや。
よい本にしますので、皆さんよろしくお願いします。