苗字かぶり

組織に属していると、同じ苗字を持つ人々が見られることがある。

そういった人々はそれぞれ下の名前で呼ばれたり、「ちゃん」「くん」などジェンダー的敬称の使い分けがなされたりする。
あるいは苗字を使うことが避けられ、肩書きやあだ名で呼ばれることもある。

しかし、例えば同じ苗字の人がふたりいて、うち片方が組織において非常に影の薄い存在である場合、苗字のみあるいは「苗字+さん」などでもう片方を指すことが可能になることがある。
これは、「まさか影の薄い方は指さないだろう」という暗黙の了解や、単純にもう片方の存在が忘れられていることが作り出す状況である。

先日、私が属す組織で、あるイベントに向けた役割分担の名簿が作られた。
苗字のみが表に埋められ、私自身の苗字を確認しながら全体をざっと見たら、おやと思うことがあった。

私が「この苗字は組織にふたりいる」と認識していた姓が、名を添えられずに記載されていたのである。
「これではどちらを指しているのかわからない」と思った。

しかし、よく考えるとその苗字を持つ人のうちひとりはあまり姿を現すことがなく、おそらく組織内での認知率も非常に低いと思われる。
とすれば、この表の作成者はそのあまり姿を現さない方の存在を忘れていて、区別の必要性に気づかなかった可能性がある。
そういうことかな、と思って済ませることにしたが、私はどちらかといえばあまり姿を現さない方とよく話していたので少し寂しかった。

イベント当日、その忘れられていた方は姿を現さなかった。
そして、同じ苗字を持つ影の濃い(?)方が名簿にあったとおりの役割を担当していた。
まあそうか、と思った。

後日、このことを考えながら外を歩いていたら、T字路の角から影の濃い方が現れた。
その人はすぐ私に気づき笑顔であいさつをした。

私もあいさつを返したが、なんだかその人が私からの認知度を上げようとしているみたいで怖くなった。
まるで影の薄い方を組織から完全に忘れさせようとしているようで。

あいさつをしてくれたその人は何も悪くないのだが。

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