今コカコーラの自販機が三国志状態になっている

 10月、私は新宿を歩いていた。

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 そこにはコカコーラの自販機が並んでいた。

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 前を通ると、ある一つの自販機の右下にグッと目を引く商品があった。「C」「E」という文字が大きくデザインされている。私はこれを一目見て「ビタミンCとEにそれぞれ特化した栄養ドリンクか」と思ったが、近づいてよく見てみるとそれが勘違いであると分かった。

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 それらの正体はコーンポタージュ海老のビスクであった。1本130円。印象的なアルファベットはコーンの「C」海老の「E」を表していたのだ。海老のEってなんだよ、シュリンプのSにしろよ、と思ったがもしかしたら私のようにビタミンCやEと見間違うのを狙った作戦だったのかもしれない。私はまんまと擬似餌に騙されたというわけだ。ムカついたのでいずれも買わずに帰った。

 しかしその後、家の近所の自販機でもこの商品を見つけた。

100エンホセイサン

 さっきの自販機と同じポジションに同じ並びでたたずんでいる。ただしこっちは1本100円だ。安さの誘惑に負けて買うことにした。自販機で海老味の飲み物を買う勇気がなかったため、今回は無難なコーンを選んだ。

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 無難な味である。

 数日後、また別の自販機でこれらを見つけた。するとそこには見慣れない顔があった。

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 M! ミネストローネの「M」である。
今までは素材の頭文字をとっていたが今回はスープの名称からとったようだ。そこらへんの筋の通ってなさは「海老のE」の適当加減で慣れている。

 その後もこれらの商品を見かける機会は増えていった。ただ全ての自販機でCやEやMが平等に並んでいるわけではなく、

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 このようにMが多めになっている場合や、

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 Cが多めになっている場合などがあった。

 また、自販機の上部に貼られている宣伝用POPに目を向けたらある発見があった。

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 ここにはMがないのである。そしてCが若干目立つように配置されている。Eは遠慮がちに一歩控えているようだ。

 これらの情報から、以下のことが推測される。
①まずCとEが発売された
②後発でMが発売された(そのためPOPには掲載されていない)
③安定した人気のC、新進気鋭のMの売れ行きが良い

 以上の推測をもとに自販機の観察を続けていくと、私の心境にひとつの変化が起きた。

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 まるでそれぞれの商品が自販機の中で陣取り合戦をしているように見えてきたのだ。あの象徴的なアルファベットは陣地を示すのぼり旗の役割を担っているに違いないという見解である。これはもう令和のコカコーラ自販機における三国志だとしても過言ではない。

 では、これまでの調査に基づくCEM三国志の歴史を簡単に説明しよう。

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寒気が近づくコカコーラの大地には、二つの国CEがあった。
勢力はCの方が大きいものの、両者の間では正常な国交が築かれていた。

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やがてそこに新興国Mが現れる。

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Mは友好的な国交を嫌い、強引に領土拡大を進めようとする。

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Mの暴挙を見過ごすことができないCは、時に突っ張って対抗する。

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そしてこれらの戦いに割って入るほどの国力を持っていないEは、
両者にいい顔をする形でなんとか居場所を保っている。

 と、このような様相を呈しているのだ。
こういった流れを踏まえると、やはり一番気になるのは

「CとMの直接対決ではどちらに軍配が上がるのか」

という点である。現在は緊張状態が続いているわけだが、一発ドカンと派手に喧嘩をしてもらいたいのが野次馬の性だ。もしCとMだけが同数売られている自販機を見つけたら、それぞれ限界まで買い占めて先に売り切れた方を勝ちとしようと思う。人気の商品の方が早く売り切れるからだ。出費は痛いが、歴史の見届け人として覚悟は決めている。

 ここで、CM大戦争を迎えるにあたってこれまでに確認された戦場(自販機)の実態を改めてお伝えしたい。これら3種類の商品は、必ずしも揃って売られているわけではないということだ。

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 かつての名残りでCとEだけが売られているところも依然として多いし、EとMだけという組み合わせもある。そしてそれぞれが1つの自販機を完全に独占しているパターンも稀に存在する。

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 しかし不思議なことに、100台以上の戦場を見ても「CとMだけ」という組み合わせには出会うことが無かった。だからこそ、CとMの大一番がどうしても期待されてしまうというわけだ。

 私の日常的な行動圏だけでは自販機の数にも限界がある。そこで対象範囲を広げ、CとMが直接ぶつかる場所=令和コカコーラ冬の陣における関ヶ原はどこかと考えた。そして一つの答えを出した私は、汐留に向かった。

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 CMといえば電通だからである。きっとここにあるはずだ。

 と思って探したが、なんと電通本社の周りには自販機が全く存在していなかった。本当に建物と道しかない。慌てて人の多そうな方向へ進んでいくと、やがてJR新橋駅付近に着いた。

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 しかし新橋駅の改札付近でようやく見つけた一台もEのみという体たらくぶり。電通の影響力など所詮この程度である。がっかりしながら、その足でもう一つの場所に歩いて向かう。赤坂だ。

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 CMといえば博報堂だからである。早速コカコーラの自販機を見つけた。

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 しかし残念ながらここでは三国が拮抗していた。太鼓持ちのEもあまり出しゃばっていると鬱陶しく感じてくるが、気持ちを切り替えて別の場所を探していたら地下鉄赤坂駅への階段を発見した。直感を信じて下りていく。果たして、頂上決戦は地下闘技場で行われているのか。

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 なんとここでもEが割り込んでいた。本当に邪魔な奴である。そんなに平和が恋しいか。とにかく、こんな調子でCとMの直接対決は実現されないままなのだ。

 それにしても、CとE、EとMの組み合わせはあるのになぜCとMは見つからないのだろうか。ていうかEは余計にありすぎじゃないか、などと考えていたところで、友人から連絡があった。

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 「JR川崎駅・東中野駅の構内にある自販機は、Eのみである」という報告だった。私は彼と遊んでいる最中でも自販機を探して写真を撮ったりしていたので、気を利かせて調べてくれたらしい。駅(EKI)のEではないか、という冗談には目をつぶるが、報告の内容は非常に興味深いものだ。私は昨今の事情で電車に乗る機会もグンと減っていたため、JR駅構内の自販機は観測できていなかった。これは調べる価値がある。都合の良いことに近日中東京競馬場へ行く日があったので、その行き帰りで利用する駅の自販機を見てみることにした。

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 2月以来の東京競馬場だった。やはり生で見る競馬はテンションが上がる。しかも途中で200円の馬券が10000円近くになったりして、完全に浮かれていたら最終的に3000円マイナスで終わった。馬鹿である。そんな馬鹿でも自販機探しは忘れない。

 乗り換え等で利用したJR中野駅・国分寺駅・西国分寺駅・府中本町駅の構内にある自販機をチェックした。その結果がこれである。

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ぜ〜んぶEのみ!!!

 仰天した。これは今までの認識を改めなければいけない事態だ。冷静に情報を整理しつつ推察しよう。

 まず私はこれまでEを「CとMのおこぼれをもらう腰巾着」のように捉えていた。いや、それは別に間違いではなかったのかもしれない。しかしEは、CとMが火花を散らしている隙に、自分だけが勝負できるフィールドを着実に広げていたのだ。それがJR駅構内の自販機である。

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 JR東日本の駅構内では「acure」というブランドミックスの自販機が幅をきかせている。これは様々な飲料メーカーの商品を取り揃えることで手広くニーズに応えることがウリの自販機だ。今回私がJR駅構内で観測したEのみ販売されている自販機もすべてacureだった。つまりEだけがacureのお眼鏡にかなったということになる。

 では、なぜCとMはacureで採用されなかったのだろうか。これに関してCの敗因は明確である。コーンポタージュの競合相手が多すぎたのだ。

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 今回見つけたacureの自販機で売られていたコーンポタージュ商品は、ポッカサッポロの「じっくりコトコト つぶ入りとろ〜りコーン」とダイドーの「濃厚デリ コクとろコーンポタージュ」の2種類に限られていた。特に前者は2008年から発売されており、広く馴染みのある商品だ。世界のコカコーラでも崩せぬ牙城だったということである。

 ならばMの敗因は何か。コーンポタージュと違ってミネストローネは珍しい商品で、競合相手も少ないはずである。それでも採用には届かなかった。

 これはひとえに、Eがハマりすぎたという点に尽きると考える。acureで販売されているスープ系飲料を見てみると、不動のコーンポタージュの他にビーフコンソメスープ麻婆スープが目立つ。

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 麻婆スープの商品見本には「チキン&ポークの旨味」という文言がある。つまりビーフ・チキン・ポークの枠も埋まっているということだ。コーンポタージュの野菜枠、ビーフコンソメ・麻婆スープの肉枠が既にあるとすれば、必然的に求められるのは魚介枠であろう。そこにE、海老のビスクがドンズバというわけだ。(一応「しじみ70個分のちから」という商品は売られているがこれはあくまで味噌汁であり、出汁として与したあの小さな貝では魚介の看板を背負いきれなかったと考えるのが妥当である。)

 Mは残念ながら野菜枠で被ってしまったため一歩及ばずという結果なのだろうが、正直相手が悪かっただけだと考えることもできる。ミネストローネの需要があればすぐに採用されるはずなので、今後JR駅構内で見かけるようになる日が来てもおかしくない。
また、この野菜枠被りという問題は、私がCとMの直接対決をとうとう観測できなかったことにも通ずるだろう。一台にCとMだけでは、野菜と野菜で共倒れになってしまうのだ。CとEあるいはEとMならば野菜と魚介、すなわち植物と動物になり消費者のニーズに対応しやすくなる。Eは太鼓持ちだなどと嘲笑していた自分が愚かしい。

 ともあれEの作戦には恐れ入った。CとMが自社のフィールドで鍔迫り合いをしているのを横目に、思い切った外交路線で海産のシルクロードを築いていたのだから。振り返ればJR新橋駅でもEだけが売られていて、あの自販機もacureだった。私が呑気に広告代理店巡りをしている時にはもう、JR東日本と手を結ぶEの艦隊が忍び寄っていたのだ。

 しかしEの発展はまだまだ途上で、ここからいかに人気を獲得し、自社のフィールドでも勝負できるまでに成長していくかという課題がある。決着はついていない。

 などと考えつつ自販機の観察を続けていたら、ついに歴史的瞬間を目撃した。

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 EとMが並び、Eだけが売り切れているのである!!!


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 そして隣にあるもう一台の自販機に、離れてぽつんとCがある
これはどういうことか。

 JR東日本のネットワークを利用して勢力を拡大したEは揺るぎない人気とともに自社の戦場へ凱旋し、勢いそのままCとMを下した。覚悟を決めたMはEの傘下に入り、Cは孤立したのである。大勢は決した。

Eの完全なる勝利だ。

 まさかEがここまで成長するとは思っていなかった。そもそも公式のPOPではCの方が目立つように掲載されていたわけだし、コカコーラ社にとってもEのこの伸びしろは誤算だったのではないか。

 などと驚く間にもEは時を追うごとに発展しており、例えば私が最初に100円でCを購入した近所の自販機は当時CとEしかなかったが、やがてCとEとMが揃ったのち、更にEが2つ追加されている。

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 左で3種が揃ってからは何度かその均衡状態を見て「やっておるわい」と思っていただけに、右でEがさらに2つ並んでいるのを見たときは心底ギョッとした。海老のビスク三日会わざれば刮目して見よ、といったところである。

 長くなったが、以上が私による記録だ。
ここからはあくまで個人的な好みの話である。

 私は海老の風味がそんなに好きじゃない。今回の商品も3種すべて飲んだが、Eだけはちょっと我慢して飲んだ。Cは無難で、Mがずば抜けて美味しく感じた。私はトマトが好きなのである。Mは塩分が他より控えめなのも嬉しい。

 記録の中で私は「大勢は決し、Eが完全に勝利した」と述べたが、あれは嘘だ。あくまで現状の話に過ぎない。冬はまだ始まったばかりなのだ。三国志もまだまだ続いている。そして今後の戦況を左右するのは我々消費者である。

 私は、Mの一兵卒として冬の陣に臨むと腹に決めた。食費の一部を下克上への期待とリコピン摂取に捧げる。

 ここまで読んでくださったあなたも、もしかしたらC・E・Mいずれかの商品が気になっているかもしれない。寒い日に偶然これらの商品に出会ったら、冬の陣に加勢するつもりで購入してみてはいかがだろうか。

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 断ち切られた国交が再び正常化するかは、我々の手にかかっている。

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