正月、実家に帰省した際、美容の専門学校に通う親戚から「鬼谷くんはスキンケアに気を使った方がいい」と言われた。
純朴な私はその翌日にメラノCCメンズというシリーズの化粧水などを買い、以降風呂上がりに3種の液体をピタピタと顔に当てる日々が始まった。
そこから己の顔面に多少なりとも意識を向けるようになっているのだが、今日鏡を見ていたら、頬骨のあたりに赤くニキビのようなものがあることに気づいた。
あったところで普段は「ああ出来てらあ」と思うだけなのだが、今日は外に出る機会があったので「ない方がよかったかもな」と思った。
そこで突然、あるもののことを思い出した。
これである。
これを、私は持っていた。
買ったのは5〜6年前で、たしかネットで偶然見かけて「これを使えばより良い自分になれる気がする」と思いAmazonで注文したのだった。しかし注文した段階である程度満足していたため、ほぼ使わずじまいだった。
そんな状態で今でも部屋の隅にひっそりと置かれていたこれを急遽サルベージし、使用期限などをあえてチェックせず使ってみることにしたのだ。
塗ると、たしかにニキビは目立たなくなった。
効果が目に見えて面白い。毎日の化粧水は正直なんのために塗っているのかまだ分からないが、このコンシーラーは分かる。ニキビを隠す効果がある。ていうか、なんか塗った部分の肌が少し綺麗に見える。
ニキビは左の頬骨あたりにあったので、色のバランスをとるため右の頬骨あたりにもコンシーラーを塗ってみた。
そんなことを含めて外出の準備が完了したため、不織布の60枚入り使い捨てマスクを装着して家を出た。
昼。ごはんを食べるときにマスクを外して気づいた。
白いマスクの両端および紐の部分が、コンシーラーの茶色に染まっているのだ。
ああっ、と思った。驚きや恥ずかしさなどの感情。
帰宅後、鏡を見たらニキビの赤さは露わになっていた。マスクに何度も触れ、塗ったものは全て拭い取られたのだろう。
現在の私は、親戚の言葉によって触発されたモチベーションがまだ高く維持されている。
突発的に夜の洗面所で反省会が始まった。
結論として、改善したい点は大きく2つ。
まず、マスクをしても拭い取られない塗り方や道具はあるのか、ということ。コンシーラーを塗ったとて、外出直後しか効果が発揮されないのでは意味が無い。
これの解決策は今のところ不明だ。具体的な情報収集が必要だろう。
そして2つ目。
コンシーラーを塗ったというようなことが「マスクの汚れ」によって露呈されたくない、ということ。恥ずかしいからだ。
これに関しては正直諦めざるを得ないか、と思っていたが、この時ふと思い浮かんだものがある。
実家の母親が付けていた、ペールオレンジ色のマスク。
あれは「マスクに色があった方がかわいい」的な理由のみによって選ばれているものだろうと思い込んでいたが、実は「化粧品が付着しても目立たない」という利点を含んでいたのではなかろうか。
このことに気づいた瞬間、今まで見てきた全ての色付きマスクに新たな背景が生まれた。あれらが需要を得ているのは、気分だけの問題じゃなかったのだ。
この発見の喜びは、今回の失敗による恥ずかしさを全て掻き消した。なかなか得がたい、楽しい学習である。もしかしたらみんな当たり前のように知っていることなのかもしれないが、自力でここまでたどり着けたというのが嬉しい。
ああ、あのマスクには別の使命があったのか。
色の分だけ値段を取られるのはもったいないと思っていたよ。見直した。
とは言ったものの、今後私がペールオレンジのマスクをつける気分にはなるかは分からない。