トイレの操作盤だけで点字をすべて予想する

こんにちは。

先日、友人たちと上野動物園に行きました。

ここは動物がたくさんいて良い施設です。
ちなみに私は年パスを持っています。

私は年パスを持っていない友人たちに対して得意げに園を案内していたのですが、なぜかいきなり腹が痛くなったのでトイレに行きました。
「せっかくの動物園なのに……。もし年パスを持っていなかったらこんな時間の過ごし方は悔しすぎて泣くぞ……」と思いながら個室で格闘していると、そのうち暇になってきたのでウォシュレットの操作盤を観察し始めました。そこで、あることに気づきます。

「これ、点字がついてるな……」

そう、点字がついているのです。全てのボタンに点字が添えられています。しかし、私は点字を読むことができません
振り返れば今まで多くのものに点字がついていることは認識していましたが、私自身が点字を必要とする場面がなかったために強く意識することがありませんでした。
そこで私は便座に腰掛けながらも点字の解読を試みたのですが、ふと冷静になると腹痛は治ってるし友人を待たせていることに気づいたのでそこでは解読を中断しました。

というわけで、今から点字の解読を始めます

まず、私が点字について漠然と知っていることは以下の2点です。
6個の点の有無で1組の点字ができている。
・1組の点字が1つのかなに対応している

この知識だけに頼って進めていこうと思いますが、点の配置を説明するにあたって以下のような表現をしていこうと思います。

点の配置を左右に区切り、上から順に123と振っていく考え方です。
※これは私が設定したものなので公式の表現とは異なります(多分)。

この試みにおける目標は、この操作盤にある情報だけを頼りに50音すべての点字を予想し的中させることです。
これを通して点字への理解が深まりいつか何かの役に立つようならばさらに嬉しい!

ではまず、操作盤に表記されている文字と点字を照らし合わせながら以下の項目に注目していきます。

やっていくぞ!

「おしり」「おと」に共通する「お」

これは明快です。
「おしり」は3つ、「音」は2つの点字で表されているので、おそらくそのまま「おしり」の3文字、「おと」の2文字が点字にあてはめられていると考えられます。その根拠は、それぞれ1つ目の点字が同じものだということです。

したがって、「お」「し」「り」「と」の点字がわかりました。
ここで「と」がわかったことにより、「止」も推測できます。

「止」は2つの点字で表されていますが、その1つ目が「と」と一致しています。したがってこれは「とめ」と読むことが考えられ、「め」の点字もわかりました。

「よわい・つよい」or「よわく・つよく」問題

水勢と音量のところを見ていただくと、それぞれに「-(マイナス)」と「+(プラス)」の表記があり、水勢の場合はどちらも3つの点字、音量の場合は4つの点字で表されています。
これは
水の勢いが「弱くなっていく」「強くなっていく」
音姫の音量が「小さくなっていく」「大きくなっていく」
ということを表現しているものだと思いますが、「おしり」のようにハッキリと音があてられているわけではないので慎重に考える必要があります。
水勢の場合、ここで考えられるのは
「よわ」「つよ
「よわ」「つよ
「よわ」「つよ
あたりだと思いますが、「よわめ」は先ほど①で「め」の点字が判明していて、それと一致しないため違うことがわかります。よって残るのは上の2択なわけですが、ここで音量の場合に目を向けてみます。
「ちいさい」
「ちいさく」
この時、なんと「ちいさい」の方にだけ「い」が2つあります
つまり、「ちいさい」が正解ならば点字も同じものが2回登場するというわけですが……

同じものはない!
ということは、「よわ」「つよ」「ちいさ」「おおき」という文字がそれぞれの点字にあてはめられていると考えてもよさそうです。
ここで「よ」「わ」「く」「ち」「い」「さ」「お」「き」の点字がわかりました。

③「ビデ」の濁点

「ビデ」は4つの点字で表されています。
そして、察しの良い方はもう気づかれているかもしれませんが、1つ目と3つ目の点字が同じものなのです。
この点字(私の設定した表現でいうと右2)は、「濁点」を表すものだと考えられます。この点字(右2)の次に来る音を濁らせるものだとすると、「ひ」「て」の点字もわかりました。

「ノズルきれい」の謎

この操作盤において一番の異彩を放っているのがこの「ノズルきれい」です。
まずこのボタンを押すと何が起きるのかという話ですが、ウォシュレットなどの水が出てくるあの棒を洗う、というものです。
これがなんと4つの点字で表されているのです。つまり4つの音です。
いや、もしかしたら③で判明した濁音用点字のように、「単音ではないけどほかの点字に何らかの作用をもたらす点字」が含まれている可能性があります。それでも4文字以下であることはおそらく間違いないでしょう。
さらにこれ、よく見ると3つ目の点字は既に判明している「き」なのです。

つまり、「4文字以下」で「(たぶん)最後から2番目の文字が『き』」の言葉が表されている可能性が高いです。
……なに?
そんな条件で「ノズルきれい」を表す言葉がありますか?
「ノズきれ」とかいう謎の略語が頭に浮かびましたが、初めてこのボタンに出会った人が点字に触れて「のずきれ」と伝えられたところで何の機能かは全く分からないと思います。あと「ズ」で濁音が含まれているので、濁音記号で一つの点字を使うというルールがあるとすればこれは成り立ちません。
謎が多いのでこれはまだ理解できないと判断します。

ここで、一旦「ノズルきれい」の点字を保留したまま、これまでに得た情報から残りの五十音を予想する段階に進んでいこうと思います。
今までに判明した点字を五十音表にあてはめてみましょう。

少しずつ進んでいる感じがありますね。
これに基づき、以下の項目に注目していきます。

タ行の共通点
先ほどの五十音表を見ると、なんとタ行の音が4つも集まっていることがわかります。これを並べて考察してみたら面白い共通点が見つかりました。

お気づきでしょうか?
「なんとなく形とかボリューム感が似ている気がする」などと感じられるかもしれません。
なんとこれら全て、以下の部分が共通しているのです。(私が設定した表現でいうと右23左3の部分)

タ行というまとまりで見たときに、6つの点の有無のうち3つが一致するというのは、これは共通点としてある程度強固なものなんじゃないでしょうか。
ここから推測できるのは
点字は子音と母音の組み合わせで作られている
ということです。
これを踏まえてもう一つの項目も見てみましょう。

②イ段の共通点

あらためて五十音表を見ると、イ段の音が6つも集まっていることがわかります。これらを比較してみます。

なんとこれらも大きく共通点を持っています。6つもあるぶん先ほどより分かりやすいかもしれません。

ガッツリ共通点がありますね。
イ段の音を6つ比較したところ、全てにおいて右1左12の部分の点の有無が一致しました。これは偶然ではないと思います。
イ段の音=母音にイを持つ音 なので、この共通点は「母音に関する一致」だと言えるでしょう。
先ほどの①においては、タ行の音=子音にtを持つ音 でありその共通点は「子音に関する一致」です。
したがって、①②から見えた傾向に基づき、
点字は子音と母音の組み合わせで作られている」と仮定して進めていきます。
また、この仮定が成り立つとき、子音と母音はそれぞれ以下の図で示された部分に反映されると考えます。

右1左12の点の有無で母音を表し、
右23左3の点の有無で子音を表す、のだろう、ということです。

では、ここからは以下の手順で一気に進めていきます。

母音をあぶり出す
ここでは先ほどイ段の音を比較したように、各段の音を比較して母音のそれぞれがどんな点字で表されるかを推測します。
嬉しいことに各段2つずつの音があるので全段で比較ができます。
まず分かりやすいウ段・エ段から。

「う」は右1左1、「え」は右1左12の点字で表されることがわかります。
比較対象は2つしかありませんが、これまでに得た情報を信用すればきっと大丈夫でしょう。
問題はこの次です。ア段・オ段。

この有様でございます。(ア段においては右1左2に点が無いことで共通していますが、「子音・母音についての仮定に反する」という意味で「共通点なし」と表記しました。)
ここまでついてきてくださった方も「何が何やら」という感じになってしまったかと思いますので、ここで今まで触れていなかった子音の限界についてご説明します。
先ほど、子音は右3左23の点の有無で表すと仮定する、と述べましたが、実はこれでは子音は8通りしか表せないんです。

3つの点の有無で表す2×2×2=8通りの子音では、ア行~ワ行の10通りを補うことができないのです。よって、ある2つの行には固定の子音を担う点を設けず、別の形で表すことにしているのではないだろうかと考えます。
そしてその槍玉に挙がった2つの行というのが、ヤ行ワ行なのでありましょう。
そう考えられる理由は、これらの行だけが他の行よりも音が少ないからです。
ヤ行……や・ゆ・よ
ワ行……わ・を・ん
といった感じで、他の行が5音ずつあるのに対して少ないのです。しかもワ行にいたっては統一された子音もありません。
また、「ゐ」「ゑ」に関しては、点字では表さないことになっているんじゃないかと考えました。常用される表記ではありませんし、わざわざこれら2音のために点字を作ったとしても読み取りの煩雑さが生じるリスクを考えるとメリットが弱いです。
よって、ヤ行とワ行は固定の子音用パーツを持たずに構成されていると考えられ、これらは規則を持たない可能性も考えられます。

というわけで話を戻すとア段・オ段の問題になるのですが、これは思い切ってサ行の「さ」、タ行の「と」だけを信じて母音を推測することにします。

これにより、「あ」は左1、「お」は右1左2の点字で表されると考えます。

子音をあぶり出す
ここでは、①母音のあぶり出しとは逆に、右23左3部分だけを見て子音を推測していきます。ヤ行・ワ行は規則にあてはまらないため対象外、そしてナ行の音はまだ判明していないので保留します。
するとこうなります。

固定の子音用パーツ(右23左3部分)を持つであろう行は、ナ行以外すべて埋まりました。ということは、消去法でナ行の子音部分が分かるのです!

これでヤ行・ワ行以外のすべての子音部分が推測できました。
それを①で出た母音と組み合わせると……

おお~!!!!!
かなりゴールが近そうです。

「ノズルきれい」の正体
忘れかけていたあいつの正体を暴く時が来ました。

「ノズルきれい」です。
最初は全く分かりませんでしたが、ここまで五十音表が埋まればほとんどあてはまるでしょう!
というわけですでに判明している点字と照らし合わせてみると……

なんだ!?
?そき?」なんて言葉あるか!?
ここにきてまた謎が生まれてしまいます。なんと1つ目と4つ目の点字はまだ五十音表にも登場していませんでした。
しかし、五十音表はこれほど埋まっているので、逆に考えれば残されているものは「や」「ゆ」「を」「ん」あるいは濁音のような記号的点字だと考えられます。

頭をひねり続けたら、ある一つの単語が浮かびました。

「じょきん……?」

除菌です。これなら意味も成り立ちます。
なぜ除菌だと思ったかは以下の通りです。

4つ目の点字を「ん」だと仮定すると、「?そきん」
これをローマ字表記すると「sokin」
ここに「y」を入れる(拗音化させる※)と「syokin」→「しょきん」
それに濁音をつければ「じょきん」となります。
※拗音=小さい「や」「ゆ」「よ」が入る音。

やや強引かもしれませんが、この仮説に基づいて1つ目の点字を見てみると、なんと序盤「ビデ」のところで判明した濁音の記号と一致する点(右2)があるのです。

もちろんこの点は他の点字にもありますが、とりあえずこれを濁点用記号だと仮定すると、その上にある右1の点が「拗音化させるための記号」だと考えられます。

つまりこの「ノズルきれい」を表す点字の1つ目は、記号の合わせ技なのではないかというのが私の推測です。「拗音化させる記号」も「拗音化と濁音化の合わせ技」も、これまでに出た点字と重複していないことがこう考えられる根拠として大きいです。
さらにここで記号について予想を広げますと、濁音のほかにも「半濁音」というものがあります。(ぱぴぷぺぽの「゜」)
これも点字として存在するならば濁音記号と同様に、拗音との合わせ技が使えるようになっているはずです。(「ぴゃ」「ぴゅ」「ぴょ」を表すときのため)
その予想に従い、合わせ技をした際に他の点字と重複した形にならないよう探していくと見つかりました。

このように半濁音記号は右3で表されると考えます。
ちなみに促音(小さい「つ」)を表す記号は省略されていると考えます。表現における必要性が弱く、読解の煩雑さが生じるリスクのほうが大きいと判断したためです。

というわけで上記の通り「ノズルきれい」の正体は「じょきん」だとすると、「ん」の点字もわかりました。

これでついに残すはヤ行とワ行だけです。

ヤ行・ワ行の不可解さ
先に申し上げておきますと、この2つは本当にわかりませんでした。
まずワ行ですが、残されている音は「を」だけであるにも関わらず、そもそも「を」の点字が存在するかどうかも怪しいのです。「を」の音自体は「お」で代替できてしまうため、点字読解の煩雑さを避ける目的で「を」の点字は削られている可能性もあるのではないか、とも考えられます。
しかし文章を理解しやすくするために「を」は不可欠だということは見逃せないので、「わ」の点の少なさにならって今回は「左2」が「を」を表すと考えることにしました。

最後に残されたのは「や」と「ゆ」です。
これはもう本当にわかりません。ただ、残された点字の組み合わせは限られており、その中から考えられるとすればこれだなというものが以下です。(「や」→右13左3 「ゆ」→右123左3)

なぜこれらになったかというと、そもそも点字というのはできるだけ縦幅を使ったほうがいい、という考え方があるだろうと思うからです。
例えば、「あ」は左1、「わ」は左3で表されると推測していますが、これらはそれぞれ単独で存在していたら「あ」なのか「わ」なのか特定できません。

しかし、以下のように一列目と三列目に点があれば、それらが左右どちらかに偏らない限り、一つの点字として特定できます。

そういう狙いで、残された点字の組み合わせの中からこの2つを選びました。
ではなぜ点の少ないほうが「や」で、点の多いほうが「ゆ」にしたかというと、これは母音の点の増え方を参考にしました。「あ」から「え」にかけて点は増えていく傾向にある、ということだけです。

さて、すべての五十音の推測が完了しました……。

圧巻ですね。ではついに答え合わせをしていきましょう。ドキドキです。

私が予想した点字は果たして正しいのか!
こちらのサイトを参考にさせていただきます。(リンク先の凸面をご覧ください)

社会福祉法人ほくてん 北海点字図書館
https://www.hokuten.com/document_gojuon.html#mark3

いかがでしょうか?
照らし合わせるのがめんどくさいですか?
その場合は下にスクロールしてください。

結果を申し上げると、正直めっちゃくちゃ惜しいです。ほとんど合っています。
私の推測で間違っていたのは
・不安視していた「
・同じく不安視していた「
促音(「っ」)が存在すること
この3点のみでした。
拗音と濁音半濁音の合わせ技まで完璧に見抜いていたのはかなり優秀なんじゃないでしょうか。
ただ、「点字は左から右へ読むものである」という確固たるルールが存在しており、それに合わせて五十音表も横書きになっていたのは想定外でした。

難解だったヤ行・ワ行に関してはこのようなルールが記述されています。

ヤ行は「あうお」を形を崩さずに一番下まで下げ、4の点を加えます。

「わを」は「あお」を形を崩さずに一番下まで下げるだけです。

母音の位置をずらすという考え方があったんですね。(引用内「4の点」とは、私が設定した表現でいうと「右1」の点です)
私は「ヤ行ワ行には法則が見当たらない」と思ってしまいましたが、そんなことはありませんでした。

この他には感嘆符(!)や長音(音を伸ばす棒ー)や句読点などもあり、驚くとともに己の想像力の弱さを恥じました。個人的には長音の形が好きです。見てみてください。

それにしても、たった1つのウォシュレット操作盤から点字の50音を予想してここまでの精度で的中できるって、すごいことじゃありませんか?
私がすごいのではなく、点字がすごい

だってたった6つの点の有無だけで文章を作ることができるわけですし、それが完全にシステマチックに構成されているから理解もできる。
緻密に作られているからこそ、点字を知らない私でもここまで読み解くことができたんだと思います。
ただ、同HPには点字にも難点があると記述されています。

一方で、点字を使用している視覚障害者が少なくなっているというのも事実です。身体障害者手帳保持者のうち、1割程度という統計もでています。
特に高齢で中途失明された方にとっては、点字を習得することは非常に難しく、利用が少ない一因となっています。
また、ITやインターネットなどの進化により、音声媒体などで、情報を取得することができるようになり、情報取得手段の選択肢が増えました。

学習の難しさ、というのはたしかに想像できます。
点の配置と音の結びつきを覚えるのも大変でしょうし、それを覚えたとしても指先で認識できるようになる難しさもあると思います。
私もトイレの操作盤の点字は触ってみましたが、点が何個あるかなどは全然わかりませんでした。
一方で点字の良さも語られています。

しかし、点字は一度習得することで、個々のペースで文字の読み書きができるので、知識を構築したり、考えを整理する上で、非常に優れています。
音はその場で消えてしまいますが、点字は幾度となく確認することができ、確実に自分の知識に蓄積できる強みがあります。

私は正直音声媒体の有用性というものはとんでもなく大きいなと思ってしまいますが、点字が音声媒体より確実に優れている点として「電力が不要」ということがあると思います。
電力が不要であるからこそ、点字はどこにでも永続的に存在することができます。この安定感はかなり重要なんじゃないでしょうか。

いま点字を必要としていなくても、いつか自分自身のためになったり人の役に立てる場面があるかもしれないので、ある程度理解を深めておく必要があるかもしれないなと思いました。

ということで、「ウォシュレット操作盤の情報だけを頼りに点字五十音表を予想する」という当初の目標は惜しくも達成できませんでしたが、点字について今まで意識していなかったことに目を向けることができました。
でもやっぱり完全的中を逃したのは悔しい……。

それでは皆さん

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