仕事で初めて行く場所に向かっていた。どうやら時間の計算が甘かったようで、走らなきゃいけないほどのギリギリ具合だと気づいた。
Googleマップの指示に従い、住宅街の細い道を駆け抜けていく。都内では夏日が観測されていた。暑い。顔に汗が滲む。
走る。
私は本当に予定に間に合うのか。遅刻したら怒られるのだろうか。
走る。
進む先に、L字の角が見えた。息を切らしつつもコーナーを曲がろうとしたとき、白いポールに書かれた文字が目に入った。
都内で一番の急坂。
なぜだ。
とにかくここを右に曲がらなければいけない。
なぜだ。
なぜ、今なんだ。
なぜ今、都内一の急坂が現れるんだ。
まあ進むしかないから駆け上ったけど。
用事には間に合ったけど。
用事の中の会話で、「産後の母親」みたいな言葉が出てこなくて「子供を産んだ直後の女の人」というキモすぎる表現をしてしまったけど。
用事が済んでから坂について調べたら、都内で一番急な坂は全然ここじゃなかった。