2022年3月14日 見えぬ男のホワイトアウト

ハッピーホワイトデー!

いやー今年も見事に白い白い。

渋谷のJINSへ眼鏡を買いに行った。
今使っている眼鏡をよく見ると表面のコーティングが所々剥げており、一瞬でも凝視されたら引かれてしまうと感じたのである。

私は強度の近視で、眼鏡をかけると目がかなり小さくなる。だからそもそも眼鏡は家でかけるもので、人に姿を見せるときは必ずコンタクトレンズを装着するようにしているのだが、そろそろ舵を切りたい気持ちになってきた。
「眼鏡の人」になってしまいたいのだ。

眼鏡の人になることができれば楽だ。出かける前の手間が減るし、経済的にも助かる。コンタクトは清潔な環境で着脱しなければいけないので、たとえば急に自宅に帰れなくなった場合などに弱いという問題もある。

そもそも私は、小学3年生から中学2年生まで完全に眼鏡の子だった。メガネくん、メガネザルなどと陰で呼ばれていたこともある。

そんなメガネくんが中学2年のときの文化祭にて、所属するソフトテニス部の顧問が監督として率いる演劇が上演されることになった。参加者は裏方も含め全校から自由に募る形だったので、私は大道具として参加を希望した。
そしてなぜか主役にさせられた。
全校から募集した参加希望者が誰一人として演者になりたがらなかったので、脇役も含めて強制的にソフトテニス部員ばかりで構成されたのだ。顧問兼監督いわく「うちの部員なら気兼ねなく稽古に引っ張り出せるから」とのことだった。

そんな訳で稽古を重ね、いよいよ本番1週間前となったとき、監督が「この作品の時代に眼鏡って無いよね」と言い出し、急遽私のコンタクトデビューが決まった。本番はなんとなく終演した。

それ以降、テニスをする際などにもコンタクトの方が都合いいため日常的にコンタクトを着けるようになり、いつの間にか眼鏡の子ではなくなったというわけだ。

それから10年が経ち、私は改めて眼鏡の人になりたがっている。今はもうテニスとか体育とかやらないので、眼鏡生活が最も快適なはずなのだ。

ただやはりここまで近視が進んでしまうと、見た目を良くするのが難しい。

だから今日、JINSの店員さんに相談してみた。

「私は強度の近視で、眼鏡をかけると目が小さくなるのが嫌です。この問題を解決するような眼鏡の選び方はありますか」と。

すると店員さんは「目が小さく見える具合は、レンズの大きさによって変化します。レンズが大きければ大きいほどレンズの外縁は歪曲して厚くなり、顔のより広範囲を小さく見せてしまいます。また錯視的な効果としても、眼鏡のフレームが大きいほど相対的に目が小さく見えてしまうので、つまりレンズ(フレーム)の小さい眼鏡を選べば、近視の方でも比較的目が小さくなりにくいでしょう」と明快に答えてくれた。

すごい。さすが都内一頭地に立つ大型店舗の店員だ。そしてメモもせずに話を聞いてここまでハッキリと理解している私もすごい。

要するに、レンズのちっちゃい眼鏡を選べば勝つるのだ。私は店内の商品をくまなく見比べた。

そのまま1時間半経った。
ぜーんぜん決まらない。

レンズが小さめの眼鏡は何個もあるのだが、それは同時に「顔面に対して小さい眼鏡」でもあり、そうなると相対的に顔が大きく見えたりチグハグな印象を与えかねないという問題が生ずる。そして何より、試着するメガネには結局度が入っていないので、実際につけたときのイメージが全く想像できないというもどかしさがある。

一応いくつか候補を絞り、店員さんに声をかけて「これとこれどっちが似合ってますか……」などと聞いて、意見をいただき、悩み、時間をおいてまた別の店員さんに相談し、それでも悩んだりしていた。

そういえば店員さんは女性の方しかいない。そのことに気づいた瞬間、「俺はただ女性の店員と話したい貧乏なスケベだと思われているんじゃないか。仮にそう思われていないとしても、それに類似する行動をしていたら終わりだ」と思って発狂しそうになり、店を飛び出してベローチェに駆け込んだ。

脈を早めながらコーヒーゼリーを頼んだ。
トレーの上に白色が多くて「あ、ホワイトデーにぴったり……」などと思った。

しかしそんな雑念もすぐに消え去り、一息つけば脳内は眼鏡のことでいっぱいである。絶対にあの店で眼鏡を買わなくてはいけない。これまでの時間に対する態度を代金で示さなければいけない。戻ったときにはもう悩んじゃいけない。

コーヒーゼリーを食べ、紅茶を啜りながら、JINSのホームページで候補の眼鏡を見比べ続けた。

そうしてベローチェで眼鏡のことだけ考えながら1時間ほどを過ごし、結論として「今回は “目が小さく見えないようにレンズの小さい眼鏡を選ぶ” という原則に従って、店で一番小さいレンズの眼鏡を買おう」と決心した。

店に戻り、ほぼ女性用として置かれているのではないかと思うサイズの眼鏡を手に取り、店員さんに渡した。

店員さんは「お決まりですか」と言って微笑んだ。「やっと」を付けないのが本当に優しいと思った。

そして私が選んだ眼鏡を見て「(えっ、結局これなんだ)」みたいな顔をしていた気もしなくはないが、もう気にしないことにした。
あとは流れに沿って会計を済ませた。私の度数だと眼鏡の完成に1週間ほどかかるので、今日はこれで終わりだ。

悔いはない。胸を張って帰宅した。

そして日記を書いている今、「攻めすぎた気がする」という後悔の念が段々と大きくなっている。
俺はJINSのオシャレ空間に惑わされていたのではないか。いくら小レンズの原則に従ったとて、「男があえてウィメンズ向けのものを身につけるファッション」なんて、俺にはまだ早い。
小学生の時に入った古着屋で101匹わんちゃんが全面にプリントされたトレーナーを見つけ、「こういうのが逆にカッコいいんじゃないだろうか」と思って親に買ってもらい、帰宅して我に帰った日のことを思い出した。

ああ、こうして人は勉強していくんだな。
これからも試行錯誤しながら頑張って生きよう。

ちなみにPayPayでJINSの10%還元クーポンがあったので、用がある人はおすすめです。3月27日まで。

はあ、最後に有益な情報を書いて自尊心を保った。

とりあえず眼鏡の完成は楽しみに待とう。店員さんもあれだけ親身になってくれたわけだし、結局めちゃくちゃ似合うかもしれないんだから。

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