健康診断があった。すなわち今朝は検尿のために採尿をした。「採尿」という文字を見ると、やはり言葉は誰にだって作れるものなのだと思える。
採尿においては、出始めの尿は捨てることが推奨され、「中間尿」を採用するよう促される。年に一回、このときにだけ意識する言葉、中間尿。
健診自体は午後16時ごろを予定していたが、それに向けて「朝食は7時までに済ませて、以降断食しろ」と指示があって少し驚いた。そんなに我慢せねばならなかったか。
調べたら「検査前の8時間は断食するのが望ましい」とあったので、じゃあ16時の検査であれば8時までに食べればいいのかな、と思って結局8時半ごろに食べた。二度寝してしまったのだ。しかしこの程度の遅滞で何かが決定的にダメになることは無いだろう。私は他人より消化が早いような気もするし。
健診会場に着くとまず中間尿の提出を求められた。続けて「本日お食事は何時に済ませられましたか?」と聞かれた。言葉に詰まる。わざわざ念入りに聞くようなことなのか。少し不安になって「8時前……まあ7時過ぎくらいです」と粉飾決算した。
その後は誘導に従うままそつなく進み、トリでおよそ40代と見られる女性内科医の診察があった。これがすごかった。
私の通院状況について軽くおさらいしたのち「運動してる?」と聞き、あまりできてないですねえと答えると「運動しましょう!山でハイキングとか!普段の散歩もいいけど、生活圏からは距離をとって、全身を動かして移動しましょう!」と言って腕をブンブン振りだした。それだけでは終わらない。
「あと、髪型を変えましょう!その髪型は普通です!美容院に行ってBTSの写真を見せて『こうしてください』って言ってごらん!心を変えなくても勝手に世界が変わるよ!周りの反応が変わるから!自分のためじゃなくて周りのために!私はこの世に1人でも多くイケメンを増やしたい!」
呆気に取られてめちゃくちゃ笑ってしまった。散髪しても私はBTSにはなれない。途中から「もしかしてこれは何か、診療としてのメソッドに基づいてるのか?」という思いさえ生まれていた。もしかしたら私の暗さを案じて勇気づけようとしてくれているのかもしれない、と。総じて失礼な人だったが、愉快ではあったからな。
診察も終わり、窓口でリストバンドなどを返却していたら、診察室からさっきの先生が飛び出してきて「ほら!この髪型なんかどう!?」と言って、スマホに映る韓流アイドルを見せてきた。彼の髪は全体が緑色に染められていた。
やることはやったので結果を待つだけだ。
あっ
あーーーー!!!!!
去年健康診断をした日、たまたまルーロー飯を食べていたにも関わらず、日記のタイトルを「ルーローに健診」にしなかったことを悔やんでいたのだ。そしてリベンジを誓っていた。
そのことを、たった今思い出した。
今日私が食べたものはこれだ。
ケンタッキーの月見バーガーである。かなりうまかった。
このほか、セブンイレブンでジェノベーゼのパスタサラダや、カップうどんの赤いきつねを食べたりしていた。
これじゃあダメだ。全身異常の再検査だ。
しかし今はもう22時過ぎである。さらに夕飯を食べたのは20時半ごろだったから全然お腹が空いていないである。ルーロー飯なんてわざわざ食べたくないのである。しかも明日は6時起きなのである。かなり早起きで、一日中動き回る予定なのである。
しかし、気づいたからにはやるしかない。伝統というものはこういうところから生まれる。私は日本に新たな風習を作るのだ。
レトルトのルーロー飯は一度食べたことがあるから、それを買おうと思った。
家を出て、コンビニ3軒、スーパー3軒を回った。どこにもない。23時を過ぎた。
最後のスーパーにこれだけがあった。これを買うしかなかった。
これはルーローハンの「もと」である。液体だけが1袋入っている。
豚肉を炒めたのち、ルーローハンの素と水を加えて25分煮込んで出来上がりとのこと。
これを今から、23時20分からやるしかない。
バラ肉は高くてロースしか買う気にならなかった。500グラム。ルーロー飯って本来は脂を楽しむ料理みたいなところあるけどな。
とにかくこれを細かく刻んだ。そんなことやっている場合ではないのに。
できた。0時を過ぎてしまったが、これが伝統を守る者の意地だ。
味は文句無くうまい。
しかし、健康診断に由来するアクションではない。