何年か前の夏、高校の同級生らと7人で北海道に行った。
北海道はいい土地であった。土地として一番感動したのは美瑛だ。あの大きくうねる丘陵地帯は素晴らしかった。花が咲いていない時期だったが、咲いていないからこそ丘のうねりをダイレクトに楽しむことができたと思う。ただ、私の他に美瑛を好んでいたのは1人だけで、残りの5人は何味だか分からないソフトクリームを食べながら我々の感動が落ち着くのを待っていた。すすきのの風俗をこの旅行の一番の目的にしていた友人曰く、美瑛に行った日の記憶は何も無いという。彼は風俗から帰ってきた時に「ここに嬢のおっぱいが触れたんだ」と興奮した様子で語りながらメガネの縁を舐めまわしていた男だから無理もない。風俗で適切なサービスを受けたにも関わらずこういった余韻まで全力で楽しめるのはすごいことだと思う。
そして北海道で衝撃を受けたのは、とうもろこしの美味さだ。焼きとうもろこしを食べたが本当に美味かった。とうもろこし以外にも美味いものはたくさんあったものの、とうもろこしが群を抜いて美味かった。また食べたい、と心から思う。あとは味噌ラーメンやスープカレー、ジンギスカンなど北海道グルメ的なものは大体食べた。まあ普通に美味かった。正直とうもろこしが強すぎて他が霞んでいる。札幌でスープカレーの有名な店に行こうとして店の前まで車で行ったものの営業しているか分からない感じだったので1人が代表して聞きに行ってきてくれたのだが、なんだか店員から雑な対応をされたらしく、怒った様子で「この店はダメだ、別のところにしようぜ」みたいなことを言っていたのが面白かった。どんな接客をされたらそうなるのだろうか。その日はイオンの中にあるスープカレー屋に行った。普通だった。
北海道のグルメといえばもちろん海鮮も目玉だ。実は私はこの北海道旅行で一つの目標を掲げていた。それは「本当に美味いとされるウニを食べてみる」ということである。どういうことかと言うと、まず私はウニが苦手なのだ。しかし海の無い栃木県で生まれ育った私はもしかしたら下等のウニだけを食べて「ウニはまずい」と思ってきたのかもしれない。そこで、海の幸に恵まれた北海道にて上等のウニを食べれば「ウニは美味い」と考えを改めることができ、その後もウニを食べられるようになるかもしれないという算段だ。
様々な評判を調べ、味に信頼のおけそうな寿司屋に行った。たしか小樽だった。結構な人が待っているほどの店で、値段も安くはないので味に期待が高まる。席に通され、まずは思い思いに注文をして寿司を食べる。私もマグロとか鯛とかよく覚えていないけどいろいろ食べた。全部美味い。それぞれが何を食べようと割り勘だというのでバクバク食べた。そしてついにウニを注文する時がきた。ウニは私以外の奴らにとってもスペシャル感のあるものだったらしく「ウニ、いきますか」と一つ息を飲むような感じで全員揃って注文した。
ウニがきた。ドキドキする。今までの「みんなにとっての御馳走を喜べない自分」から変われる時が来るのかもしれない。実家でスーパーのパック寿司を食べる際の、ウニを親へ譲る代わりに玉子をもらう「絶対に損してる交換条件」からも脱却できるのかもしれない。
意を決してウニを食べる。まずい!全然まずかった。でももしかしたらこのウニ自体が下等なウニなのかもしれないので、連中のうち最もウニが好きそうな奴に「このウニ、どう?」と訊いてみたら「今までのウニの中で一番美味い」と言っていたので、私のウニ人生は終わった。これからも私はウニと玉子を交換していくしかないのだ。金銀交換比率の違いを利用され大量の金貨が海外に流出した江戸時代の日本を思い出して悲しくなる。悔しい。とりあえずその場では口直しも兼ねてまたいろんな寿司を注文して食べた。ウニ以外は全部美味いから嬉しい。最終的に量も金額も一番多く食べた私が勘定の上では得をした。しかし一つの海産物との可能性が潰えたのは私だけなのでトントンだと思う。とかく様々な経験ができたいい旅行であった。
そして先日、大学の先輩とごはんを食べていた時にウニの話題があがった。私はウニが苦手であることとそのエビデンスを上記のように語った。わざわざ北海道まで行って正真正銘のウニを食べたのだから私のウニ嫌いは間違いないのだ、と。
するとウニ好きの彼はこう言った。
「ああ、ウニはな、美味すぎるやつは、まずいで」
衝撃を受けた。ウニの美味さは度を越すとまずさに転じてしまうらしい。意味が分からないが、そういうことらしい。ウニ好きの言うことだから私は反論できない。
ウニはな
美味すぎるやつは
まずいで
私はまだウニを見限らなくていいのかもしれない。