謎の果物「ポポー」を食べた

君はポポーという果物を知っているか。
私はかねてより知っていた。panpanyaさんという漫画家のおうちにポポーの木があるという話を見聞きしており、その名前だけを知っていたのだ。しかし私はその見た目を調べたりすることなく過ごしていた。ポポーという間抜けな響きに魅了され、ポポー、ポポーと頭の中で反復するだけで満足してしまっていたのかもしれない。それでも憧れはたしかに大きく、いつか食べてみたいと思っていた。

そして、ポポーは突然私の前に現れた。

半年ぶりに実家に帰った日のこと、荷物を置き部屋着に着替えて掘りごたつに座った私に向かい、母が言った。
「ポーポーっていうフルーツを貰ったんだけど、食べる?」
私はギョッとして、それはポポーのことか、と訊いたが母はよくわからないという様子で実物を持ってきた。それがこれだ。

これがポポーだ。接近しよう。

見た目は小さめの洋梨のようである。ふわーっとしつつもスッと鋭い香りが漂う。他の何かに喩えることは難しいが、くだもの然とした香りである。
母が知人からポポーを貰ったのは1週間以上前のことらしく、熟れるタイミングを待っていたとのことだ。それにしても私が長らく恋い焦がれていた果実が、その存在を知ってもいなかった母から差し出されるとは驚いた。実家に帰ってよかったと心から思った。

このポポーは半分に切って母とありがたく食べた。

そして私が実家で2週間を過ごし、再び東京に戻る日の昼、母の買い物の付き添いで道の駅に行った。ここでは地元の野菜などが売られている。
そこで再び出会ったのだ。

ポポーの群れである。驚いた。今まで見たことがなかったのに、こんな短期間で二度も顔を合わせることになるとは思っていなかった。
母に交渉し、私が東京へ持って帰るために買ってもらった。ここからはそのポポーの写真と共に味の報告をしようと思う。

「森のカスタードクリーム ポポー」とある。森のバターは訊いたことがあったが、カスタードクリームもあるのか。また、下の表記では「ポポ」とある。母はポーポーと呼んでいたし、この揺れの多さからポポーがいかにマイナーなくだものであるかが伝わってくるだろう。

実はこれらも既に熟したものであり、東京に持ってきてから2週間は経っている。パックを開ける前からすごくいい香りがしているし、後半の1週間ほどは冷蔵庫を開けるたびにこの香りが漏れていていい気分だった。

3つ並んだうち右のものの大きさはこんな感じだ。アボカドほどの大きさか。ハムスターだとしたら大きすぎるぐらい。
表皮は食べることはできない硬さだが、薄いため、果肉は傷みやすいだろう。ポポーが全国に流通していない理由のひとつかもしれない。

まな板の上のポポー。

横に真っ二つにするとこんな感じ。種にぶつかって切れなかったので最後は手でひねった。ホクッと分かれる。この感触もまたアボカドを切るときに似ているかもしれない。

スプーンですくうとこんな感じ。見た目にはたしかにカスタードクリームっぽさがある。
食べると、ねっとりしている。少しザラつきを感じることもあるが大部分はなめらかだ。うまい。味を詳しく説明しようとすると、酸味は無く、ちゃんと甘くはあるものの、実に表現しにくい。というのも、味を人に伝えるには「似た何か」を挙げることでその想像をさせるものだが、ポポーの味は今までに食べたどのくだものにも似ていないのだ。そしてカスタードクリームにも全く似ていない。実家で食べたときも母は「この味は何だろう……」と首をひねっており、最終的に我々の間で出た答えは「ガムの味」であった。こういうガムがあるね、という表現でしかポポーを喩えることができなかった。しかしガムには無数の味のパターンがあるため、こんなのは喩えになっていない。パイナップルがパイナップル味であるように、ポポーはポポー味なのだ。母は「こんなのが山にあったら猿は大喜びだ」と言っていた。私もそう思う。美味いということの婉曲表現である。

カスタードクリームっぽさ。

表皮の近くでは少し繊維質になる。この食感もまた悪くない。

ポポーの特徴のひとつに、種が大きく、そして多いという点がある。これは食べる上では嬉しくない。「ポポーが全国に流通していない理由その2」かもしれない。半分に切った片方に、大きめのどんぐりみたいな種が5つも入っていた。種の周りには果肉とは異なる質感の皮のようなものがあり、果肉と共に口の中でにゅるにゅるやっているとやがてつるんと種が独立する。これはライチの種の周りにあるアレに似ている。

別のポポーでは先に皮を剥く食べ方もやってみた。こうすればかぶりつくように食べられるじゃないかと思ったが、すぐに大量の種にぶつかってしまい、想像よりも満足感の得られない結果となった。スプーンで食べた方が美味く感じると思う。

そして、これはポポーに関する衝撃のひとつだが、食べ終わった後の手がすごく臭くなった。どの成分が作用しているのかわからないが、ポポーの果肉や皮は全く臭くないのに手だけが臭い。不思議と臭い。不思議すぎて、別のことをしながらも30分ぐらい嗅ぎ続けていたらいつの間にかいい匂いとして認識していて面白かった。これは実際にいい匂いに変化したのか、私の脳が「コレハ イイ ニオイダ」と判断するようになったのか分からない。最終的には消えゆくその香りに名残惜しさまで感じていた。とはいえ最初は間違いなく臭かった。私の手に原因があったらどうしよう。

というわけで、私は憧れの果物「ポポー」を食べた。やはり食べ物というのは実際に食べてみるに限る。特に果物や野菜というのは、作られた料理には無い面白さがあるので、初めて食べると楽しい。まだまだ食べたことのないものがたくさんあると思うので、またこういう機会に恵まれることを期待する。

ちなみに母の知人からポポーの苗をもらったため、いつか実家の庭でポポーを収穫できる日が来るかもしれない。そうなったらすごく嬉しい。その時には猿や鳥に盗まれないよう対策する必要があるだろう。まあ10年ぐらい先の話になるかもしれないが。

とにかく来年も食べようと思う。ポポー。

「また会おうね〜」

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