退屈な式典で「ん」を数える

『夢中さ、きみに。』(和山やま KADOKAWA)という漫画を買って読みました。主に男子高校生が出てくる短編集。とても面白いです。ぜひ。

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以下、本作中のある短編におけるワンシーンとそれに関連する私の思い出です。

ページ順で最初の短編[かわいい人]にて、林という男が学校中の階段の合計段数を数えて「481段」と言うシーンがあった。そこで突然ボンと思い出された私の記憶。

私は男子高に通っていた。毎年3月に行われる卒業式がとにかく退屈で、卒業生も在校生も5割が寝ていた。私はこの退屈さは男子高という性質に由来するものだと思い込んでおり、「共学だったら告白イベント等にうわついてる奴が多くて楽しいはず」と思いながら男子高で3度の卒業式を過ごした。共学の実態は今も知らない。

1年生の時に参加した卒業式では、新鮮さのせいか最後まで目が覚めていた。そして卒業式のつまらなさを身をもって知った。3年生になり、主役として迎えた卒業式では偉い人の話にもぼんやりと耳を傾けつつ時を過ごしていたが、両隣に座る友達はずっと寝ていて私に寄りかかってきていたので起こし続けた。私はだいぶ真面目に参加している生徒である。

一番ひどいのは2年生で参加する卒業式だった。つまらないことを知った上で、自分たちに関係のない式典に長時間臨み、立ったり座ったりする。楽しみが全く無い。眠くなるのは当然だ。しかし、私は椅子で寝ると体が揺れまくる上にいびきをかく特徴がある。起きてても良いことはなく、寝たら悪目立ちすることが確定しているのだ。

仕方ない、とにかく起きている必要がある。起き続けるにはどうすればいいかと考え、私は一つの作戦を編みだした。それは、式典中にマイクを通して発される「ん」の数を計測することである。

卒業証書授与で「ほんだ翔太」という生徒が名前を呼ばれたら1カウント。「ぜんいん、起立」と言われたら2カウント。決して数え間違えることのないよう指を折り計測する。頭と指先を動かし続けることで、強い眠気に襲われることはない。「ん」の計測はまさに名案であった。

眠らないための対策として始めた「ん」の計測だが、式も半ばを迎えたあたりでは完全に興が乗っていた。最もテンションが上がったのは、来賓の知らないおじさんが気取ったスピーチをしている中で「混沌とした現代社会」というフレーズを発した瞬間である。これほどの短文中にいきなり3つも「ん」が入っているともはや軽いパニックになり、目もバッチリ覚める。あのおじさんのスピーチで最も心を動かされたのは私だろう。

式も最後のプログラムを終え、司会の先生が発した「卒業生、退場」という言葉に「ん」が含まれていないことを確認し、私の計測も終了した。こんなに集中して臨んだ式典は初めてだった。

結果。この卒業式中にマイクを通して発された「ん」の数は461個であった。多いのか少ないのか分からない。達成感を抱いていいのかも分からないまま、目を覚ましたばかりの友達に計測内容と結果を報告した。反応は薄かった。疲れたのでもうやりたくないと思った。

ということを、林の「この学校の階段、全部で481段あった」というセリフで思い出した。数字が似ているからだと思う。似ているがゆえに、比較してしまう。私は461、林は481。林の方が20多い。悔しい。

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