「エッセイ」カテゴリーアーカイブ

歌に自信がない男

カラオケに1人で行き、5時間ぐらい歌いつつ録音して、家に帰ってからそれを聴いている。

自分の歌声に酔っているのではない。逆である。私は歌が上手くない。だからこそ、自分が持てる能力での「聴いていられる歌」を探しているのだ。

ほとんどの曲は聴いていられない。ただ、たまに最初から最後まで聴いていられる曲がある。そういうのは忘れずにメモをとる。そして、人との遊びなどで不意にカラオケにいくことになった時に、こっそりとこのメモを見るのだ。その中から、遊びのメンバーを考慮して選曲する。歌が上手くない人間として、それなりになんとかしようとしているのだ。涙ぐましい努力だとは思わないか。安定した収入を得られる立場になったらボイトレとか行ってみたいと本気で思っている。すべては、年に一回行くか行かないかというカラオケのために……。

ちなみに最近行ったカラオケで私がピックアップした曲は以下の3つである。

ROCKエロティック/Berryz工房
GOOD BYE 夏男/松浦亜弥
浮舟/GO!GO!7188

歌える曲リストはほとんどハロプロ系が占めている。中途半端に声が低いので、男声ボーカルの曲が歌えないのだ。ほんとは嵐やエグザイルを歌って踊ったら盛り上がるんだろうな、と考えたりもする。今の私には天竺を目指すような話だ。それでも、クラスの人気者になるためにひとつひとつ努力していきたい。

まずは°C-uteの『まっさらブルージーンズ』のダンスを練習しようか……。

「なんとか りょうこ」が思い出せない

皆さんにお伝えしたい話があるんですが、その話に出てくる人物の名前が思い出せません。女優です。

いつも必ず名前が思い出せなくなる芸能人っていませんか? 私の場合は2人いて、顔が濃いテルマエロマエの人と、今回の女優です。

テルマエロマエの方は、まず平井堅と思ってしまう。それは顔が濃いつながりってだけで、本当はなんだっけな。漢字三文字ってのも一致してる気がする。トリックに出ててね、ホームページが軽くてさ。なんだっけ。内海博、みたいな?

阿部寛だ!!!
阿部寛です。マジでいま思い出しました。いつもこのぐらいのプロセスを踏んでます。なんなら今回はいつもより早かった。

本題は女優です。下の名前が「りょうこ」なのは分かるんですけど、出てくるのは「広末涼子」と「篠原涼子」だけなんですよ。もう1人いますよね? 皆さんはもう見当がついているはずです。でも私は「何りょうこ」なのかが分からない。「何りょうこ」って言うと「谷亮子」みたいですね。谷亮子は柔道家であって女優でないので今回は違います。苗字はたしか漢字二文字で4音だったと思うんです。だから「広末」「篠原」と同じですね。
で、ドクターXの主役。もう皆さん分かりますね! 私だけ分からない! くやし〜! ハズキルーペのCM出てたっけ?「小さすぎて見えない!」って言ってそうですよね。CMで叫んでるイメージがある。あ、「日本のスマホ代は高すぎる!」か。でも名前はわからねえ〜!

なんだっけな〜。キリッとしててね。桐谷? 違うなこれは桐谷美玲か。

ドクターXなんだよな〜。見てなかったけど。
「私、失敗しないので」つってね。本当に失敗しないのかな?

あとはぴったんこカンカンに割とよく出ててね。安住アナと仲良さげというか、りょうこの方は「結婚しましょうよ〜」みたいなことを言ってた気がするが。なんだっけなあ。

「こんばんは、安住紳一郎です。本日は、華の都パリにやって参りました。こんなところでお会いする方といったらどなたなのでしょうか……」
「お〜い!安住さ〜ん!」
「ちょっと何やってるんですか! 馬がかわいそうでしょう!?」
「大丈夫ですって! サラブレッドみたいな軽種馬じゃないんだから!」
「本当ですかあ? ということで本日のゲストは、女優の……」

「えー、女優の……」

出てこねえ〜!!!!!
そもそも2人がパリでロケをしたことはないし、馬をいじめていたこともない。

全く出てこないので、苗字の頭文字を五十音順に思い浮かべます。

あ、い、う、え、お、か、き、く、け、こ、さ、し、す、せ、そ、た、ち、つ、て、と、な、に、ぬ、ね、の、は、ひ、ふ、へ、ほ、ま、み、む、め、も、や、ゆ、よ、ら、り、る、れ、ろ、わ

……出てこねえ〜!!!!!
しかも五十音って案外すくねえ〜!!!!!

はあ、マジで分からん。

佐藤雅彦

違う違う。いま近くに佐藤雅彦の本があったからなんとなく書いてしまった。いや、でも近い気もする。「佐藤」の一文字目が軽くて二文字目が重い感じとかは、かなりその気配を感じる。

米倉涼子。

は?

米倉涼子じゃん。

米倉涼子だ!!!!!!!!!

うわー!!!!!!!!!!!
佐藤雅彦のおかげで思い出した!!!!!

時間かかったな〜! 米倉涼子! もうこんな手間かけたくない。
ドクター「X」を2つ掛け合わせると「米」になる、と覚えようかな。

いや〜、それにしても思い出せてよかったなあ。すっきりした。

では、忘れかけていた本題の話をします。

こないだ散歩してたら米倉涼子を見ました。

uni-verse

何年か前の夏、高校の同級生らと7人で北海道に行った。

北海道はいい土地であった。土地として一番感動したのは美瑛だ。あの大きくうねる丘陵地帯は素晴らしかった。花が咲いていない時期だったが、咲いていないからこそ丘のうねりをダイレクトに楽しむことができたと思う。ただ、私の他に美瑛を好んでいたのは1人だけで、残りの5人は何味だか分からないソフトクリームを食べながら我々の感動が落ち着くのを待っていた。すすきのの風俗をこの旅行の一番の目的にしていた友人曰く、美瑛に行った日の記憶は何も無いという。彼は風俗から帰ってきた時に「ここに嬢のおっぱいが触れたんだ」と興奮した様子で語りながらメガネの縁を舐めまわしていた男だから無理もない。風俗で適切なサービスを受けたにも関わらずこういった余韻まで全力で楽しめるのはすごいことだと思う。

そして北海道で衝撃を受けたのは、とうもろこしの美味さだ。焼きとうもろこしを食べたが本当に美味かった。とうもろこし以外にも美味いものはたくさんあったものの、とうもろこしが群を抜いて美味かった。また食べたい、と心から思う。あとは味噌ラーメンやスープカレー、ジンギスカンなど北海道グルメ的なものは大体食べた。まあ普通に美味かった。正直とうもろこしが強すぎて他が霞んでいる。札幌でスープカレーの有名な店に行こうとして店の前まで車で行ったものの営業しているか分からない感じだったので1人が代表して聞きに行ってきてくれたのだが、なんだか店員から雑な対応をされたらしく、怒った様子で「この店はダメだ、別のところにしようぜ」みたいなことを言っていたのが面白かった。どんな接客をされたらそうなるのだろうか。その日はイオンの中にあるスープカレー屋に行った。普通だった。

北海道のグルメといえばもちろん海鮮も目玉だ。実は私はこの北海道旅行で一つの目標を掲げていた。それは「本当に美味いとされるウニを食べてみる」ということである。どういうことかと言うと、まず私はウニが苦手なのだ。しかし海の無い栃木県で生まれ育った私はもしかしたら下等のウニだけを食べて「ウニはまずい」と思ってきたのかもしれない。そこで、海の幸に恵まれた北海道にて上等のウニを食べれば「ウニは美味い」と考えを改めることができ、その後もウニを食べられるようになるかもしれないという算段だ。

様々な評判を調べ、味に信頼のおけそうな寿司屋に行った。たしか小樽だった。結構な人が待っているほどの店で、値段も安くはないので味に期待が高まる。席に通され、まずは思い思いに注文をして寿司を食べる。私もマグロとか鯛とかよく覚えていないけどいろいろ食べた。全部美味い。それぞれが何を食べようと割り勘だというのでバクバク食べた。そしてついにウニを注文する時がきた。ウニは私以外の奴らにとってもスペシャル感のあるものだったらしく「ウニ、いきますか」と一つ息を飲むような感じで全員揃って注文した。

ウニがきた。ドキドキする。今までの「みんなにとっての御馳走を喜べない自分」から変われる時が来るのかもしれない。実家でスーパーのパック寿司を食べる際の、ウニを親へ譲る代わりに玉子をもらう「絶対に損してる交換条件」からも脱却できるのかもしれない。

意を決してウニを食べる。まずい!全然まずかった。でももしかしたらこのウニ自体が下等なウニなのかもしれないので、連中のうち最もウニが好きそうな奴に「このウニ、どう?」と訊いてみたら「今までのウニの中で一番美味い」と言っていたので、私のウニ人生は終わった。これからも私はウニと玉子を交換していくしかないのだ。金銀交換比率の違いを利用され大量の金貨が海外に流出した江戸時代の日本を思い出して悲しくなる。悔しい。とりあえずその場では口直しも兼ねてまたいろんな寿司を注文して食べた。ウニ以外は全部美味いから嬉しい。最終的に量も金額も一番多く食べた私が勘定の上では得をした。しかし一つの海産物との可能性が潰えたのは私だけなのでトントンだと思う。とかく様々な経験ができたいい旅行であった。

そして先日、大学の先輩とごはんを食べていた時にウニの話題があがった。私はウニが苦手であることとそのエビデンスを上記のように語った。わざわざ北海道まで行って正真正銘のウニを食べたのだから私のウニ嫌いは間違いないのだ、と。
するとウニ好きの彼はこう言った。

「ああ、ウニはな、美味すぎるやつは、まずいで」

衝撃を受けた。ウニの美味さは度を越すとまずさに転じてしまうらしい。意味が分からないが、そういうことらしい。ウニ好きの言うことだから私は反論できない。

ウニはな
美味すぎるやつは
まずいで

私はまだウニを見限らなくていいのかもしれない。

松井珠理奈さんから連想する記憶

松井珠理奈さんが卒業するらしい。

松井珠理奈さんと聞いて私が思い出すのは、『涙サプライズ』を初めて聴いたときに「なんか好きな声の人がいる」と思ってAKBファンの友達にその声の主を尋ねたところ松井珠理奈さんだった、というそれだけだ。ついでに私と同学年だと知り、なんとなく好印象を抱いたっきり新たな情報を得ることのないまま今に至った。

私が中学生の頃、AKBはめちゃくちゃ流行していた。私は流行に乗るセンスが無かったが、AKBに関しては触れておかないとまずい気がしたので、前述したAKBファンの友達に「なにかAKBのCDを貸してくれ」と言い、『涙サプライズ』のシングルを借りた。そして聴いた。すごく良かった。だからiPod nanoに入れてめちゃくちゃ聴いた。それで松井珠理奈さんのことも知った。

涙サプライズを心底気に入った私は本当にこの1曲だけを聴き続け、歌詞中の主人公に自分を投影し、派手に誕生日を祝われる妄想を何度もした。中学の同級生と初めて一緒に地元栃木から東京へ行ったときも、電車の中で涙サプライズを繰り返し聴いていた。今思えばそういう旅路では友達との会話を楽しむべきだったが、当時の私は東京に行くことの素敵さと誕生日を盛大に祝われる素敵さを重ね合わせてうっとりしていた。やがて中学3年の私に突然のボサノヴァブームが訪れるのだが、それまではとにかくよく聴いていた。中学時代の思い出の一つである。

時は経ち、大学に進学し東京で一人暮らしをしていた私は20歳の誕生日を迎えた。この日の夜はせっかくだから少しでも賑やかに過ごそうと考え、思い当たる友人6名に「ごはんを食べよう」と連絡したら全員に断られた。仕方なく一人ではま寿司に行った。ネギトロユッケという軍艦が好きだったのでタッチパネルで注文したら、専用皿に乗ってレーンを回ってくるはずが、私のところに届くまでに誰かに取られていた。しょうがないのでもう一度注文したら、また誰かに取られたようで空の専用皿が回ってきた。結局、5回連続で私の注文したネギトロユッケは誰かに取られた。どうやら相当のネギトロユッケ好きが私の手前にいたようだ。6回目の注文でようやくネギトロユッケは私のもとに回ってきた。

念願のネギトロユッケを食べたところで気持ちも大きくなり、はま寿司を出た私は誕生日を更にエンジョイするためカラオケに向かった。これが良くなかった。

そこのカラオケの利用が初めてだった私は会員証の作成を求められ、用紙に必要事項を記入した後、会員証の裏面に名前と誕生日の記入を命じられた。名前と、その当日と同じ日付の誕生日を記入した。意地悪な店員なら「こいつ誕生日に一人でカラオケ来たのかよ」と考えるかもしれない、と気づいて恥ずかしくなったが、どうしようもなかった。事実だから。

歌う部屋に入り適当に歌い始め、3曲目あたりを選んでいた頃、ふと「誕生日といえば涙サプライズがあるなあ」と呑気に連想し、涙サプライズを選曲した。たくさん聴いた好きな曲である。しかし、前田敦子が大勢のメンバーに祝われるMVが映された瞬間、歌詞の内容と自分の状況の対比にハッキリと気づいてしまい、絶句した。マイクを持ったまま本当に絶句した。声が出ないという感覚を初めて知った。そして自分自身の配慮の無さにも絶望した。呆然としたままMVを見ていたら、1番のサビに差しかかろうとしていた。せめてサビからは歌おうと思ったが、実はサビの歌詞が一番私の状況に似つかわしくないのだ。「ハッピーハッピーバースデイ」。私は「ハッ……」という薄い発声をしたきり、また黙ってしまった。「ピー」という音を発せるテンションではないのだ。ぜひ皆さんも強いショックを受けた際は試してほしいが、こういう時はパ行の音が本当に出せない。

その後なんとか気持ちを切り替えて、いろんな曲を乱暴に歌った。6時間歌って、帰った。

これが私と松井珠理奈さんの思い出です。

退屈な式典で「ん」を数える

『夢中さ、きみに。』(和山やま KADOKAWA)という漫画を買って読みました。主に男子高校生が出てくる短編集。とても面白いです。ぜひ。

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以下、本作中のある短編におけるワンシーンとそれに関連する私の思い出です。

ページ順で最初の短編[かわいい人]にて、林という男が学校中の階段の合計段数を数えて「481段」と言うシーンがあった。そこで突然ボンと思い出された私の記憶。

私は男子高に通っていた。毎年3月に行われる卒業式がとにかく退屈で、卒業生も在校生も5割が寝ていた。私はこの退屈さは男子高という性質に由来するものだと思い込んでおり、「共学だったら告白イベント等にうわついてる奴が多くて楽しいはず」と思いながら男子高で3度の卒業式を過ごした。共学の実態は今も知らない。

1年生の時に参加した卒業式では、新鮮さのせいか最後まで目が覚めていた。そして卒業式のつまらなさを身をもって知った。3年生になり、主役として迎えた卒業式では偉い人の話にもぼんやりと耳を傾けつつ時を過ごしていたが、両隣に座る友達はずっと寝ていて私に寄りかかってきていたので起こし続けた。私はだいぶ真面目に参加している生徒である。

一番ひどいのは2年生で参加する卒業式だった。つまらないことを知った上で、自分たちに関係のない式典に長時間臨み、立ったり座ったりする。楽しみが全く無い。眠くなるのは当然だ。しかし、私は椅子で寝ると体が揺れまくる上にいびきをかく特徴がある。起きてても良いことはなく、寝たら悪目立ちすることが確定しているのだ。

仕方ない、とにかく起きている必要がある。起き続けるにはどうすればいいかと考え、私は一つの作戦を編みだした。それは、式典中にマイクを通して発される「ん」の数を計測することである。

卒業証書授与で「ほんだ翔太」という生徒が名前を呼ばれたら1カウント。「ぜんいん、起立」と言われたら2カウント。決して数え間違えることのないよう指を折り計測する。頭と指先を動かし続けることで、強い眠気に襲われることはない。「ん」の計測はまさに名案であった。

眠らないための対策として始めた「ん」の計測だが、式も半ばを迎えたあたりでは完全に興が乗っていた。最もテンションが上がったのは、来賓の知らないおじさんが気取ったスピーチをしている中で「混沌とした現代社会」というフレーズを発した瞬間である。これほどの短文中にいきなり3つも「ん」が入っているともはや軽いパニックになり、目もバッチリ覚める。あのおじさんのスピーチで最も心を動かされたのは私だろう。

式も最後のプログラムを終え、司会の先生が発した「卒業生、退場」という言葉に「ん」が含まれていないことを確認し、私の計測も終了した。こんなに集中して臨んだ式典は初めてだった。

結果。この卒業式中にマイクを通して発された「ん」の数は461個であった。多いのか少ないのか分からない。達成感を抱いていいのかも分からないまま、目を覚ましたばかりの友達に計測内容と結果を報告した。反応は薄かった。疲れたのでもうやりたくないと思った。

ということを、林の「この学校の階段、全部で481段あった」というセリフで思い出した。数字が似ているからだと思う。似ているがゆえに、比較してしまう。私は461、林は481。林の方が20多い。悔しい。