コの字のワクチンを打ってきた。
待合室にいる間、院内BGMを流そうとした看護師が「アレクサ、音楽を流して」とささやくように言っていたのを聞いてドキッとした。見知らぬ他人のアレクサコールを聞くのは初めてで、本来知るべきでない2者の関係性を覗いたような罪悪感というか、学校の先生が配偶者と歩いている姿を見かけたときのような、己の身を縮めておきたい気持ちがあった。
それで流れた曲が中島みゆきの『進化樹』だったのは少し面白かった。
松屋の麻婆コンボ牛めし。
正式名を「富士山豆腐の本格麻婆コンボ牛めし」という。自社の富士山工場で作っている豆腐だから富士山豆腐らしい。松屋はキムチもこの富士山工場で作っており、富士山キムチと名付けている。
麻婆はそこそこ美味かった。花椒の味が強かった。
これは当時のリアルな心境である。事実と言ってもよいだろう。
実際、上記の麻婆コンボ牛めしを食べ終わった後に松屋の店内でツイートした。
正直言うと、モバイルオーダーで待たされている間の自分って、客観的にヤバいやつである可能性を拭いきれないと思う。食券制の店に入店していきなり着席してスマホいじってるのってなんか小癪な態度だし、料理が到着することで自他ともに安堵している気配を感じる。
新しい技術やシステムによって身の振る舞い方を大きく変える必要があるとき、多少なりとも抵抗生まれるよな。Bluetoothイヤホンによるハンズフリー通話とか。
特殊な電子機器を身につけて全身に微弱な電波を流すことで、身体のあらゆる部位をスイッチにする技術とかできないだろうか。特定の動作によって電化製品を動かしたり、自動車の遠隔操作に使ったり。一般に普及してないだけで技術自体は既に研究されてそうな気はする。
そういう技術が普及したとき、人はどういう仕草をスイッチにすることを選ぶだろうか。
普通に考えられるのは指の折り曲げによるものだな。野球のキャッチャーのサインのように、指の第二関節を曲げて特殊な手の形を作り、その組み合わせによって意味を持たせる。
でもこれは人前でやるには少し恥ずかしいかもしれない。しかも例えばそれがパスワード的な意味を持つとしたら、セキュリティ面でも無防備だ。
となると、体の部位を動かすことすなわち「筋肉の収縮」をさせつつ、それを他者には見せずに済む動作が望ましいように感じる。
これが最も実現しやすいのはどこか。
私は本気で、肛門なんじゃないかと思う。
他人が肛門に力を入れているかどうかは傍目に全く分からない。今日私にワクチンを打った医師、麻婆牛めしを運んだ松屋店員、みな涼しい顔して肛門を絞りきっていたかもしれない。
肛門括約筋をキュッキュッと締めるリズムによって電子機器に指示を与える未来は、思いのほか便利だと思う。
キュッ キュッ キュッ キュー で
待機状態のスマホにPayPayの支払い画面を表示させる設定。
キュー キュー キュッ キュッ で
スマホの位置情報と連動し、近くのタクシーを呼ぶ機能。
想像してみて思ったけど、電子機器をスムーズに扱う人ほど「こいつ肛門使ってるな?」と思われる社会ってどうなんだろう。肛門操作であることを察されないよう、あえて手元で無駄な動作を演出することもあるかもしれない。それなら普通に操作した方がいい。
まずは「肛門=恥ずかしい」というイメージを払拭する必要がある。
肛門=便利、スマート、オシャレ、映える。
肛門操作業界が推進するキャンペーンのイメージキャラクターにはポムポムプリンが大抜擢。
おしりを突き出してフリフリと踊り、アイコニックなアスタリスクをかわいく大小させるプリン氏。すると、立ちどころにスピーカーから陽気な音楽が流れ、友達にビデオ通話がつながり、フードデリバリーのピザが届く。楽しい夜の始まりだ。
「とっても便利な肛門操作!みんなも使おう、おしりの穴!」
これは使いたくなる。